なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注48

公開: 2021年5月3日

更新: 2021年5月20日

注48. 労働コストの高い米国の生産工場

1990年代の初め頃、米ドルの対日本円の為替相場は120円前後であった。米国内にある生産工場で働く労働者達の賃金は、年収で3万ドルから5万ドル程度であった。工場で働く肉体労働者を雇用するコストを年平均で4万ドルとすれば、それは日本円に換算して、480万円程度に相当する。この金額は、日本国内の工場で働き、肉体労働に従事する人々にかかる年間の費用(給与と福利厚生を含む)とほとんど差がなかったと言える。

この米国労働者の高い賃金は、工場労働者の多くが労働組合のメンバーであり、労働組合が企業との間で取り決めた賃金に従っていた。つまり、労働者は、どの企業で働くかに関係なく、このような賃金が支払われたのである。これに対して、英国の労働者の場合、その雇用に必要なコストは、米国や日本の労働者の約半分であると言われていた。それほど、日本や米国の労働コストは高かった。

さらに、インドや東南アジアの国々、そして中南米の国々の労働コストは、もっと低かったのである。このため、1980年代の終わりごろになると、米国企業では、隣国のメキシコに製造工場を建設して、そちらに生産拠点を移すようになった。これによって、米国内における労働者のレイオフが増大し、地方都市での雇用も失われ、社会全体の景気も後退したため、労働力の余剰感が増して、労働者の給与も下がっていった。

参考になる読み物

America: What Went Wrong?、D. Barlet & J. Steele、Mission Point Press、2020